矯正治療では、歯を抜く処置である「抜歯」をしなければならない場合があります。
矯正治療において抜歯を行った患者は、全国平均でみると50%を超えるとも言われています。
とはいえ矯正治療をしたいだけなのに、本当に歯を抜かなければならないのか疑問を持つ方も多いかと思います。

今回は、抜歯処置の痛みや治療費、歯を抜かずに済む治療法まで詳しく解説していきます。
矯正治療を考えている方は参考にしてみてください。

1.矯正治療の際に抜歯はそもそも必要なの?

矯正治療を行うにあたり、できれば歯を抜きたくないかと思います。
ですが抜歯にもメリットはあり、抜歯する最大の目的は歯を並べるスペースを確保することです。
歯の大きさに対して顎の大きさが狭いと、歯が並ぶスペースが足りないために歯がガタガタに並んでしまいます。
このように、抜歯処置は歯と顎のバランスを保ちつつ、整った歯並びにするためには有効な手段だといえます。
ではどのような場合だと抜歯が必要になるのでしょうか。
主に2つのことが考えられます。

1-1.歯の大きさが顎に比べて大きい場合

現代人の食生活では柔らかい食べ物が多く、そのため顎も小さくなる傾向があります。
顎の歯が並ぶスペースに対して、歯が大きい場合、歯が収まりきらずに歯並びはでこぼこした状態になってしまいます。
その状態で抜歯せずに無理やり矯正を始めると、歯茎が下がったり、噛み合わせに支障が出たりするため注意が必要です。

1-2.上下の顎のずれが大きい場合

上顎と下顎の位置のずれが大きいと、噛み合わせや歯並びに大きな問題が出てきます。
ずれを治療する方法として外科手術がありますが、手術は避けたい方も多いはずです。
抜歯によってスペースを空けることで、大きく歯を移動させることができるため、手術なしで歯並びの矯正が可能となります。

2.抜歯を行わずに矯正を行う際のデメリット

仮に抜歯を行わずに矯正治療が進んだら、具体的にはどのようなことが起きるのでしょうか。
抜歯を行わずに矯正を行う際のデメリットは、下記の4点が挙げられます。

2-1.歯茎が下がってくる

スペースが足りない場所に無理やり歯を並べようとすると、本来の位置から歯が歯茎の外側にずれてしまいます。
こうなると歯と土台の歯茎の骨がずれて歯茎が下がったり、歯茎に大きな負担をかけたりすることになります。
日本人は遺伝的に歯肉や歯槽骨(歯茎の骨)が薄いため、歯茎が下がることは起こりやすい問題の一つです。

2-2.余分に矯正期間がかかってしまう

出歯や受け口などの不正咬合の場合、抜歯をせずに治療をしても矯正が不十分になるケースがあります。
そのような場合は抜歯をしてから再治療となり、さらに数年余分に時間を要してしまうため注意が必要です。

2-3.奥歯がしっかり揃わない

十分なスペースが足りないことが原因で、奥歯に悪影響が出ることがあります。
無理に並べようとすることで奥歯が斜めに倒れてしまい、結果として噛み合わせに支障をきたしてしまいます。

2-4.前歯が前にでてきてしまう

上記はスペースが足りないが故に奥歯に悪影響が起きましたが、前歯に弊害が起きるパターンもあります。
その例として、歯を並べる場所が足りないがために前歯が押し出され、口元が前に突き出たように見えてしまうことがあります。

3.抜歯の痛みや腫れ、抜けた隙間の埋まる期間について

抜歯の重要度についてお分かりいただけたかと思いますが、いざ歯を抜くとなると、やはり痛みや腫れが心配ですよね。
実際はどれほど痛いのでしょうか。

3-1.抜歯はどの程度痛くて腫れるの?

抜歯は矯正に限らず歯周組織に大きな負担がかかるため、何もしなければ相応の痛みを体感することになります。
しかし、麻酔や痛み止めなどの処置があるため、基本的には痛みに苦しむことは少ないと考えられます。

通常は抜歯後2~3時間で痛みはおさまりますが、親知らずを抜く場合は数日間痛みが続く場合があります。
また、腫れについても個人差はありますが、基本的には1~3日でおさまるケースがほとんどです。
歯科医師の技量・歯の状態によって痛みや腫れの大きさは変わってくるので、歯を抜く前に痛みについて相談してみましょう。

3-2.抜歯の隙間はどの程度で埋まるの?

歯を抜いたためにできた穴は、3週間前後で歯肉によってふさがれます。
その下に骨ができるのは、半年から1年程度必要だと言われています。
長い時間がかかりますが、根気強く歯が動くまで待ちましょう。
人によっては舌を隙間に入れて傷口を悪化させたり、食べ物を詰まらせたりして口内環境を悪化させたりなどの問題も起こるため、注意が必要な場合もあります。歯を抜く際に、歯を抜いた後の注意事項を守れば、基本的には大きなトラブルはおこりません。

4.抜歯で抜く歯とかかる費用について

矯正治療では高額な治療費がかかりますが、抜歯処置についてはどれほどお金がかかるのでしょうか。

費用の相場やどの歯を抜くことになるのか確認しておきましょう。

4-1.抜歯の際はどの歯を抜くの?

虫歯や歯周病に侵されて抜歯が必要な歯がない場合、矯正治療のためだけであれば、小臼歯(前から4もしくは5番目の歯)を抜くのが一般的です。
小臼歯を抜歯する矯正治療の歴史は長く、確立されている治療法であるといえます。
また、親知らずが矯正の邪魔になる場合は抜歯の対象になります。

4-2.抜歯の費用はいくらぐらい?

矯正治療のための抜歯は、保険適用外になるので自費治療となります。
地域や医院によって価格は変動しますが、1本あたり5,000円~15,000円が相場です。
これは小臼歯の場合の相場であり、別途検査代や処置代もかかる場合があるため、詳しくは歯科医院に問い合わせましょう。

5.抜歯後の注意点

勇気を出して抜歯治療をした後も、気を付けるポイントは多々あります。
トラブル回避のためにも、下記の5点については事前に把握しておきましょう。

5-1.麻酔後の2~3時間は食事を避ける

気になる食事ですが、麻酔が切れた後であれば通常の食事をしても問題ありません。
なぜ麻酔中に食事をしてダメなのかというと、麻酔が残っているうちに食事をしてしまうと、気付かず口の中を噛んだりしてしまう恐れがあるためです。
麻酔は処置後およそ2~3時間で切れるので、麻酔が切れるまでは食事は避けましょう。

5-2.2~3日は強いうがいは避ける

抜歯後の穴には「血餅」と呼ばれるかさぶたができます。
これは雑菌の侵入や外からの刺激を抑える役割があり、血餅が剥がれると痛みや治癒の遅れの原因となります。
この血餅を剥がさないためにも、抜歯後2~3日は強いうがいは避けましょう。
また歯磨きに関しても、傷口の周辺は避けて磨きましょう。

5-3.抜歯当日は激しい運動と長風呂を避ける

激しい運動や長風呂は、血流が良くなるため止血が難しくなります。
抜歯治療当日は軽くシャワーを浴びるだけで済まし、運動は避けましょう。

5-4.しっかりと止血をする

抜歯処置の翌日までは、多かれ少なかれ出血が続きます。
なかなか出血が止まらない場合は、ガーゼを噛んで圧迫止血をします。
この止血方法は約15分行い、時間が経ったらガーゼは捨ててください。

5-5.薬は指示に従って飲む

痛み止めなどの薬を処方されると思いますが、用法・用量を守ってきちんと服用しましょう。
飲み合わせが悪い薬もあるので、他に服用中の薬があれば必ず医師に相談してください。

6.抜歯を行わない治療法

これまでは抜歯を伴う矯正治療に重点がおかれていましたが、もちろん歯を抜かない矯正治療の方が理想ですよね。
できるだけ歯を残す矯正治療の例として、以下の2つの方法があります。
やっぱり歯は抜くのは怖い、という方はぜひ確認してみてください。

6-1.歯列の幅を拡張させる

歯は歯槽骨というU字型の骨の上に生えています。
その歯槽骨の上部の幅を広げることによって、歯が十分に並べるだけのスペースを作り出します。
基本的には、成長過程にある子供に効果的な治療法です。
広げる幅は僅かであるため、顔の輪郭が大きくなるなどの恐れはありません。

6-2.奥歯を移動させる

この方法に関しては親知らずは抜歯します。
あくまで親知らず以外の歯は抜歯しないという認識です。
親知らずを抜くことによって奥歯を後ろに移動させるためのスペースができ、矯正装置により奥歯を後ろに移動させ、その他の前方の歯が収まるだけのスペースを得ることができる方法です。

7.まとめ

抜歯をするにしてもしないにしても、自分に合った矯正治療の方法を選択しましょう。
そのためには、歯科医師と納得できるまで相談することが重要です。

まずは、歯科医院でのカウンセリング相談されることをおすすめいたします。