サマリー

川崎市武蔵小杉にお住まいの20代女性(29歳)が、歯のでこぼこ(八重歯)により歯が磨きにくいことと、口元の突出感を主訴に来院された症例です。診断名は「叢生を伴う上下顎前突症」でした。精密検査の結果、上下顎左右第一小臼歯4本を抜歯したうえで、ハーフリンガル矯正(上顎は裏側装置、下顎は表側装置)での治療が可能と判断し、23か月(治療費総額約124万円)で叢生を解消し、口元の突出量を3.5mm改善しました。

歯のでこぼこのすべてが抜歯を必要とするわけではありません。

本症例では、スペース不足量の大きさ、上顎前歯の傾斜角度、口元の突出量から、抜歯を伴う治療が適した条件がそろっていたことが、治療方針決定のポイントでした。

20代・30代からでも歯のでこぼこと口元は改善できる?

「矯正は子どものうちにやるもの」「成人してからの口元の改善は難しい」と考えられることがあります。確かに、顎の成長を利用してスペースを確保する治療は成長期にしかできないため、成人の治療とは方針が変わります。

一方で、成人だから歯のでこぼこや口元を改善できないわけではありません。歯を並べるスペースをどう確保するか、前歯をどこまで後方へ移動させるか、歯周組織が移動に耐えられるかを精密検査で確認することで、成人でも歯列と口元のバランスを整えられる症例があります。

抜歯を行うかどうかは、装置や年齢ではなく、その症例の条件によって決まります。本症例では、歯のでこぼこの解消と口元の突出感の改善を両立させるため、上下顎左右第一小臼歯4本を抜歯し、ハーフリンガル矯正で治療を行いました。

歯のでこぼこ(叢生・八重歯)とはどんな状態?

歯のでこぼこ(叢生)とは、隣り合う歯の高さや前後の位置がずれ、歯列に重なりが生じている状態をいいます。顎の大きさに対して歯が並ぶスペースが不足していることが主な原因で、スペース不足の影響を最も受けやすい上顎犬歯が歯列から外れて唇側に飛び出したものが、一般に八重歯と呼ばれます。

重なった部分は歯ブラシの毛先が届きにくく、プラーク(歯垢)が残りやすくなります。その結果、歯石が沈着しやすくなり、う蝕(むし歯)や歯周病のリスクが高まります。見た目の問題だけでなく、口腔清掃性という機能面にも影響する状態です。

また、スペース不足の程度によっては、歯を並べるだけで前歯が唇側へ傾斜し、口元の突出感が強まることがあります。歯のでこぼこと口元の突出感は、切り離して考えられない関係にあります。

今回の患者さんは、歯のでこぼこにより歯が磨きにくいことに加えて、口元の突出感の改善を希望されていました。

患者さんの情報

年代 20代(29歳)
性別 女性
地域 川崎市(武蔵小杉)
主訴 歯のでこぼこ(八重歯)で歯が磨きにくい、口元の突出感
診断名 叢生を伴う上下顎前突症
使用装置 ハーフリンガル矯正(上顎:裏側(舌側)装置/下顎:表側マルチブラケット装置)
治療期間 23か月(通院間隔 1〜1.5か月)
治療費 約124万円(自費診療)
抜歯の有無 あり(上下顎左右第一小臼歯 計4本)

初診時の状態

初診時には、上顎に6〜7mm、下顎に9〜10mmのスペース不足が認められ、上顎犬歯が唇側へ転位した八重歯の状態でした。歯が重なっている部位は清掃が困難で、プラークが残存しやすい状態です。

側面頭部X線規格写真(セファロ)による分析では、上顎中切歯の前方への傾斜角(U-1 to SN)が115°で、基準値の108°と比較して前方へ傾斜していることが数値としても確認されました。上下口唇には突出感が認められ、安静時に口唇を閉じる際に緊張を伴う状態でした。

なぜ抜歯を伴うハーフリンガル矯正を選んだのか?

本症例では、上下顎左右第一小臼歯4本を抜歯したうえで、ハーフリンガル矯正を選択しました。理由は主に2つあります。

1つ目は、歯を並べるスペースと、前歯を後方へ移動させるスペースの両方が必要だったことです。

上顎6〜7mm、下顎9〜10mmのスペース不足に対し、抜歯をせずに歯を並べた場合、上下の前歯が唇側へ傾斜し、口元の突出感はかえって悪化すると想定されました。横顔のバランスを考慮すると、上下前歯を後方へ移動させる必要がありました。

2つ目は、抜歯で得たスペースを配分することで、叢生と前突を同時に解消できると判断したことです。

第一小臼歯4本の抜歯により得られるスペースを、叢生の解消分と前歯の後方移動分に配分することで、一連の治療で歯のでこぼこと口元の両方を改善できる条件がありました。

装置については、上顎を裏側(舌側)装置、下顎を表側装置とするハーフリンガル矯正を選択しました。会話や笑顔で人目に触れやすい上顎の装置を目立ちにくくしながら、抜歯を伴う大きな歯の移動をコントロールするための選択です。

なお、すべての歯のでこぼこが抜歯を必要とするわけではありません。スペース不足量、前歯の傾き、骨格、口元の突出量によって、適した治療方針は変わります。

治療結果

治療後は、上下顎の叢生が解消し、唇側へ転位していた上顎犬歯も歯列内に配列されました。歯の重なりがなくなったことで、歯ブラシの毛先が各歯面に届きやすくなっています。

口元については、上下口唇の突出量が3.5mm改善し、安静時に力を入れずに自然に口唇を閉鎖できる状態となりました。

治療前に主訴とされていた「歯が磨きにくい」「口元の突出感」は、いずれも改善しました。

なお、治療結果には個人差があり、同様の症例でも同じ結果になるとは限りません。


治療前後の比較

口腔内写真

術前

術後


側面頭部X線規格写真(セファロ)

術前

術後

※ 写真は患者さんご本人の同意を得て掲載しています。治療結果には個人差があります。


院長より

今回の症例で重要だったのは、初診時の精密検査で、スペース不足量と前歯の傾斜角を数値として正確に把握できたことです。

上顎6〜7mm・下顎9〜10mmのスペース不足、上顎中切歯の傾斜角(U-1 to SN)115°(基準値108°)という数値は、「歯を並べるスペースが足りないうえに、前歯がすでに前方へ傾斜している」ことを示しています。この条件で抜歯を行わずに治療を進めれば、歯は並んでも口元の突出感は悪化します。治療前にこの点を判断できたことが、良好な結果につながったと考えられます。

成人の抜歯症例は、歯周組織の状態によって移動できる範囲が変わるため、治療前の診査が結果を左右します。本症例では歯周組織の条件が整っており、抜歯スペースを利用した前歯の後方移動が可能と判断しました。

歯のでこぼこの治療で大切なのは、「歯を並べること」と「口元を整えること」を両立できる方針を、診断の段階で見極めることです。装置の種類や年齢だけで治療結果が決まるわけではありません。

成人になってから歯並びや口元が気になり始めた場合でも、症例によっては改善できることがあります。ただし、すべての症例で同じ方針になるわけではないため、精密検査を受けたうえでご相談ください。

よくある質問

Q
治療期間と費用はどれくらいですか?
A

本症例の治療期間は23か月、費用は約124万円(自費診療)です。通院間隔は1〜1.5か月ごとです。治療期間と費用は、スペース不足量、抜歯の有無、装置の種類によって症例ごとに異なります。

Q
矯正装置には慣れますか?
A

抜歯が必要かどうかは症例によって異なります。本症例では、口元の突出感を改善するため上顎第一小臼歯2本を抜歯しました。抜歯の要否は、オーバージェットの量、前歯の傾き、口元のバランス、骨格などを確認して判断します。

Q
痛みはありますか?
A

個人差はありますが、痛みはあります。ワイヤーを交換すると3〜7日程度痛みが続き、その後は徐々に引いていきます。我慢できない場合は、市販の鎮痛剤を服用していただくことで対応できます。痛みが強い期間は軟らかい食事をお勧めしています。また、本症例は抜歯を伴うため、抜歯部位に術後の疼痛や腫脹が生じることがあります。


リスク・副作用

矯正治療には、以下のようなリスク・副作用があります。

  • 装置装着後に痛みや不快感が生じることがあります
  • 裏側(舌側)装置では、舌に違和感が生じたり、一時的に発音がしにくくなることがあります
  • 歯の動き方には個人差があり、治療期間が延長する可能性があります
  • 装置により清掃が難しくなり、う蝕・歯周病のリスクが高まります
  • 歯根吸収(歯の根が短くなる症状)
  • 歯肉退縮(歯茎が下がる症状)
  • アンキローシス(歯と骨が癒着し歯が動かなくなる状態)
  • 歯髄壊死(歯の神経が失活してしまう状態)
  • 顎関節症(顎の痛み)
  • 抜歯を伴うため、抜歯部位の疼痛・腫脹等が生じることがあります
  • 装置除去後は、リテーナー(保定装置)の使用状況により後戻りが生じることがあります
  • 本治療は自由診療(保険適用外)です。治療結果には個人差があり、すべての方に同じ結果が得られるものではありません