サマリー
横浜市日吉にお住まいの20代女性(23歳)が、上の前歯の隙間(すきっ歯)を主訴に来院された症例です。診断名は「空隙歯列を伴う上下顎前突症」でした。精密検査の結果、上顎に合計14mm、下顎に合計5mmの空隙(歯と歯の隙間)があり、このスペースを利用すれば抜歯をせずに前歯を後方へ移動できると判断しました。ハーフリンガル矯正(上顎は裏側装置、下顎は表側装置)・非抜歯で治療を行い、16か月(治療費総額約115万円)ですべての空隙を閉鎖し、口元の突出量を3.0mm改善しました。
すきっ歯のすべてが非抜歯で治療できるわけではありません。
本症例では、歯列内に残っている空隙の量と、上顎前歯の傾斜角度から、抜歯をせずに隙間の閉鎖と口元の改善を両立できる条件がそろっていたことが、治療方針決定のポイントでした。
20代・30代からでもすきっ歯と口元は改善できる?
「すきっ歯は大人になってからでは治りにくい」「隙間を閉じるには被せ物で歯を大きくするしかない」と考えられることがあります。
一方で、歯と歯の隙間は、矯正治療で歯そのものを移動させて閉じられる場合があります。歯列全体にどれだけの空隙があるか、前歯がどの程度前方へ傾斜しているかを精密検査で確認することで、成人でも隙間の閉鎖と口元のバランスの改善を同時に目指せる症例があります。
抜歯を行うかどうかは、装置や年齢ではなく、その症例の条件によって決まります。本症例では、歯列内の空隙を前歯の後方移動に利用できたため、抜歯をせずにハーフリンガル矯正で治療を行いました。
すきっ歯(空隙歯列)とはどんな状態?
すきっ歯(空隙歯列)とは、歯と歯の間に隙間がある状態をいいます。顎の大きさに対して歯が小さい場合や、前歯が前方へ傾斜して歯列が広がっている場合などに生じます。上の前歯の真ん中に隙間があるものは「正中離開」と呼ばれます。
隙間の部分が黒く抜けたように見えることがあり、特に上の前歯に隙間がある場合は、会話や笑顔の際に人の目に触れやすくなります。また、発音時に隙間から空気が漏れ、サ行やタ行などが発音しにくくなることもあります。
空隙歯列では、前歯が前方へ傾斜していることも多く、隙間とあわせて口元の突出感が気になる方も少なくありません。隙間を閉じる方向と前歯を後方へ移動させる方向が一致する場合には、空隙を口元の改善に活かせることがあります。
今回の患者さんは、上の前歯の隙間を気にされて来院されました。
患者さんの情報
| 年代 | 20代(23歳) |
| 性別 | 女性 |
| 地域 | 横浜市(日吉) |
| 主訴 | 上の前歯の隙間(すきっ歯) |
| 診断名 | 空隙歯列を伴う上下顎前突症 |
| 使用装置 | ハーフリンガル矯正(上顎:裏側(舌側)装置/下顎:表側マルチブラケット装置) |
| 治療期間 | 16か月(通院間隔 1〜1.5か月) |
| 治療費 | 約115万円(自費診療) |
| 抜歯の有無 | なし(非抜歯) |
初診時の状態
初診時には、上顎中切歯(上の真ん中の前歯)の間に6mmの空隙があり、それ以外の歯と歯の間にも合計8mm、上顎の歯列全体で14mmの空隙が認められました。下顎の歯列全体の空隙は5mmでした。
側面頭部X線規格写真(セファロ)による分析では、上顎中切歯の前方への傾斜角(U-1 to SN)が119°で、基準値の108°と比較して前方へ傾斜していることが数値としても確認されました。上下口唇には突出感が認められました。
なぜ非抜歯のハーフリンガル矯正を選んだのか?
本症例では、抜歯を行わずにハーフリンガル矯正を選択しました。理由は主に2つあります。
1つ目は、歯列内に残っている空隙だけで、前歯を後方へ移動させるスペースを確保できたことです。
上顎の歯列には合計14mmの空隙がありました。前方へ傾斜している上顎前歯を後方へ移動させながら隙間を閉じることで、新たに抜歯でスペースをつくらなくても、口元の突出感を改善できると判断しました。下顎についても、5mmの空隙を利用して前歯の位置を整えています。
2つ目は、隙間を閉じる動きと口元を後退させる動きを、一連の治療で同時に行えたことです。
空隙を閉鎖する方向と、前方へ傾斜した前歯を起こしながら後方へ移動させる方向が一致していたため、すきっ歯の改善と口元の改善を一つの治療計画の中で両立できる条件がありました。
装置については、上顎を裏側(舌側)装置、下顎を表側装置とするハーフリンガル矯正を選択しました。主訴である上の前歯は会話や笑顔で人目に触れやすいため、上顎の装置を目立ちにくくすることを優先した選択です。
なお、すべてのすきっ歯が非抜歯で治療できるわけではありません。空隙の量、前歯の傾き、骨格、口元の突出量によっては、抜歯が必要になる場合や、隙間を閉じるだけでは口元が改善しない場合もあります。
治療結果
治療後は、上顎中切歯間の6mmの隙間を含め、上下顎すべての歯と歯の空隙が閉鎖されました。前方へ傾斜していた上顎前歯は後方へ移動しています。
口元については、口唇の突出量が3.0mm改善し、安静時に力を入れずに自然に口唇を閉鎖できる状態となりました。
治療前に主訴とされていた「上の前歯の隙間」は改善し、あわせて口元の突出感も改善しました。
なお、治療結果には個人差があり、同様の症例でも同じ結果になるとは限りません。
治療前後の比較
口腔内写真
術前
術後
側面頭部X線規格写真(セファロ)
術前
術後
※ 写真は患者さんご本人の同意を得て掲載しています。治療結果には個人差があります。
院長より
今回の症例で重要だったのは、初診時の精密検査で、歯列内の空隙量と前歯の傾斜角を数値として正確に把握できたことです。
上顎14mm・下顎5mmの空隙、上顎中切歯の傾斜角(U-1 to SN)119°(基準値108°)という数値は、「歯列内に余っているスペースがあり、かつ前歯が前方へ傾斜している」ことを示しています。この条件であれば、余っているスペースを前歯の後方移動に充てることで、抜歯をせずに隙間と口元の両方を改善できます。治療前にこの点を判断できたことが、良好な結果につながったと考えられます。
すきっ歯の治療で大切なのは、「隙間を閉じること」だけを目的にせず、隙間を閉じた結果として前歯の位置や口元のバランスがどうなるかを、診断の段階で見極めることです。
また、空隙歯列は治療後に隙間が再び開く「後戻り」が起こりやすい傾向があります。装置を外した後の保定(リテーナーの使用)が、治療結果を維持するうえで重要です。
成人になってから歯の隙間や口元が気になり始めた場合でも、症例によっては改善できることがあります。ただし、すべての症例で同じ方針になるわけではないため、精密検査を受けたうえでご相談ください。
よくある質問
本症例の治療期間は16か月、費用は約115万円(自費診療)です。通院間隔は1~1.5か月ごとです。治療期間と費用は、空隙の量、抜歯の有無、装置の種類によって症例ごとに異なります。
大半の方は1か月程度で矯正装置に慣れます。装着直後は違和感や発音のしにくさを感じることがありますが、多くの場合は徐々に軽減します。装置が粘膜に当たって口内炎ができた場合は、口内炎を抑える薬をお渡しし、必要に応じて装置の調整を行います。なお、本症例で上顎に使用した裏側(舌側)装置は、表側装置と比べて舌に当たる違和感や発音への影響が出やすく、慣れるまでに時間がかかる場合があります。
個人差はありますが、痛みはあります。ワイヤーを交換すると3~7日程度痛みが続き、その後は徐々に引いていきます。我慢できない場合は、市販の鎮痛剤を服用していただくことで対応できます。痛みが強い期間は軟らかい食事をお勧めしています。
空隙の量や歯の動き方によって異なります。本症例では、治療開始から12か月前後ですべての隙間が閉じました。
空隙歯列は、治療後に隙間が再び開く後戻りが比較的起こりやすい歯並びです。そのため、装置を外した後はリテーナー(保定装置)を使用し、歯の位置を安定させることが大切です。リテーナーの使用状況によっては、後戻りが生じることがあります。
リスク・副作用
矯正治療には、以下のようなリスク・副作用があります。
- 装置装着後に痛みや不快感が生じることがあります
- 裏側(舌側)装置では、舌に違和感が生じたり、一時的に発音がしにくくなることがあります
- 歯の動き方には個人差があり、治療期間が延長する可能性があります
- 装置により清掃が難しくなり、う蝕・歯周病のリスクが高まります
- 歯根吸収(歯の根が短くなる症状)
- 歯肉退縮(歯茎が下がる症状)
- アンキローシス(歯と骨が癒着し歯が動かなくなる状態)
- 歯髄壊死(歯の神経が失活してしまう状態)
- 顎関節症(顎の痛み)
- 装置除去後は、リテーナー(保定装置)の使用状況により後戻りが生じることがあります。空隙歯列は、特に隙間の後戻りが生じやすい傾向があります
- 本治療は自由診療(保険適用外)です。治療結果には個人差があり、すべての方に同じ結果が得られるものではありません
フォレスタ武蔵小杉矯正歯科では、初診矯正相談を行っています。すきっ歯や口元が気になる方は、精密検査のうえで治療方針をご説明いたします。





